受付では、先週の「三送会」で在校生から贈られた水引のコサージュを胸につける卒業生の姿があり、生徒会執行部の皆さんが温かく迎えてくれました。晴れの日を前にした表情には、期待と少しの緊張が入り混じっていました。
卒業生入場では、体育館に差し込む春の光の中を、一人ひとりが堂々と歩みを進めました。入退場の音楽は、吹奏楽部の男子生徒が顧問の先生とともに演奏し、二人とは思えない力強く温かな音色が式を支えてくれました。
卒業証書授与では、各クラスの代表が登壇し、しっかりと証書を受け取りました。その姿には三年間の歩みが凝縮されており、見守る教職員や保護者の皆様のまなざしも温かいものでした。
ご来賓の皆様からは、売木村清水村長様、宮島同窓会長様、片町PTA会長様より、卒業生がこれから歩むそれぞれの道に向けた温かい励ましの言葉をいただきました。人とのつながりや出会いを大切にしてほしいこと、社会に出れば思いどおりにいかない場面や壁にぶつかることもあるが、そんな時こそ柳のようにしなやかに、そして自分の信念を持って進んでほしいこと——未来へ踏み出す卒業生に寄り添う、力強いメッセージが届けられました。
式後、各クラスの教室で行われた最後のホームルームでは、担任の先生と生徒たちが三年間を振り返りながら、晴れやかな表情で時間を過ごしていました。写真に写る笑顔からは、この三年間が生徒にとっても担任にとってもかけがえのない日々であったことが静かに伝わってきました。
皆さんが阿南高校で過ごした三年間は、決して平坦な道ばかりではなかったと思います。それでも仲間と支え合い、地域の方々に励まされながら、一歩一歩を積み重ねてきました。その姿を、私たちは誇りに思います。これから歩む道では、迷うことも、立ち止まることもあるでしょう。しかし、今日の晴れやかな笑顔が示すように、皆さんには前に進む力があります。どうか自分を信じ、出会いを大切にし、挑戦を恐れずに歩んでください。皆さんの未来が、今日の紅白梅のように明るく、温かく、そして力強く花開いていくことを心から願っています。
【式辞 全文】
春の気配が日ごとに濃くなり、南信州にも柔らかな陽光が差し込む季節となりました。校庭の木々の蕾もふくらみ始め、春の息吹を感じるこの佳き日に、売木村清水村長様、宮島同窓会長様、片町PTA会長様をはじめ、多くのご来賓の皆様、そして保護者の皆様をお迎えし、長野県阿南高等学校 第七十五回卒業証書授与式を挙行できますことは、卒業生はもとより在校生、教職員にとりましても大きな喜びでございます。日頃より本校の教育活動に深いご理解と温かいご支援を賜り、また本日の式典に彩りを添えていただきましたことに、心より御礼申し上げます。
卒業証書を手にした三年生の皆さん、ご卒業おめでとう。
皆さんはこの三年間、仲間とともに学び、悩み、挑戦し、成長してきました。その歩みの一つひとつが、今日という晴れの日につながっています。
今年度、三年生の皆さんは最上級生として学校全体を力強くリードしてくれました。生徒会スローガン「アンサンブル〜心を一つにさらなる輝きを〜」の言葉どおり、個性を尊重し合いながら調和を大切にし、全校で一つの音楽を奏でるように学校を支えてくれました。
第69回阿南祭「虹〜未来への架け橋〜」では、三年生が中心となり、全校生徒の思いを一つにまとめ、虹のように多彩で美しい文化祭を創り上げました。その姿は後輩たちにとって大きな学びとなり、阿南高校の新たな伝統をつくる力となりました。
また、今年度は地域文化との結びつきが一層深まった一年でもありました。大阪・関西万博で披露された遠山郷の霜月まつりでは、本校生徒が堂々と舞台に立ち、地域の伝統を未来へつなぐ姿を見せてくれました。さらに、学習成果発表会では、探究学習の成果を地域の皆様に向けて発信し、地域とともに歩む阿南高校の姿を鮮やかに示してくれました。
一方で、世界に目を向けると、女性首相の誕生、ノーベル賞の同時受賞、戦後80年の節目など、歴史的な出来事が続いた一年でもありました。広島平和記念式典で語られた「想像力のスイッチを入れよう」という言葉は、他者を思いやる力の大切さを私たちに教えてくれました。皆さんが学校生活で培ってきた「主体性」「協力」「挑戦する力」は、この想像力を育む確かな土台となるはずです。
そして今年の冬季五輪、世界の舞台で活躍したアスリートたちの姿は、私たちに大きな勇気と感動を与えてくれました。
スノーボード女子ビッグエアで日本女子初の金メダルを獲得した村瀬心椛 選手は、
「怖さはある。でも挑戦しないと始まらない」
「失敗しても、それが次につながる」 と語り、挑戦することの尊さを示しました。
フィギュアスケート・ペアで逆転の金メダルをつかんだりくりゅうペアの木原龍一 選手は、
「苦しかった分だけ、喜びは何倍にもなる」 と語り、努力の積み重ねが未来を拓くことを教えてくれました。
そして、皆さんと同世代でありながら堂々と世界の舞台に立った中井亜美 選手は、
「思い切り楽しむために来た」 「経験を楽しむことが、自分を一番伸ばしてくれた」 と語りました。挑戦を『楽しむ力』こそが、皆さんの三年間を支えてきた原動力でもあります。
さらに、スピードスケートの髙木美帆 選手は、
「苦しい時間があったから、今の一歩がある」
「挑戦を続ける限り、人は成長できる」 と語り、挑戦し続ける姿勢の大切さを私たちに示しました。
これら選手をはじめ多くの選手に共通しているのは、「自分を支えてくれた人の存在」を決して忘れていないということです。 その姿勢は、校長室に飾られた二つの書の精神と深く重なります。
一つ目の書は、「寸草春暉(すんそうしゅんき)」です。
『どれほど春の光を浴びても、小さな草はその恩にすべて報いることはできない』 皆さんが今日ここに立てているのは、自分の努力だけではなく、ご家族、仲間、地域の方々の支えがあったからです。その恩に感謝し、自分の言葉と行動で周囲に返していってください。
二つ目の書は、わが町阿南町帯川出身の国語学者・西尾実 先生の言葉 「時々初心 不可忘(わすれべからず)」です。この言葉は、一生を通じて学び、挑戦し続ける心構えの教えです。新たな課題に挑む際、その都度未熟な初心者に戻ることが、人生の視野や可能性が広がっていくことを説いています。
四月からの新しい環境では、迷うことも壁にぶつかることもあるでしょう。 そんな時は、西尾先生がこの地に遺された 「ひと足ひと足山をも坂をも 踏み越えよ」 という言葉を思い出してください。 どんな坂も、どんな山も、一歩ずつ進めば必ず越えていけます。焦る必要はありません。自分らしく、一歩一歩を大切に歩んでください。
最後になりましたが、保護者の皆様、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。これまで温かく見守り、支えてこられた日々が、今日の晴れ姿に結実しました。心より敬意を表します。 卒業生の皆さん。 今日まで支えてくださったすべての方々への感謝を胸に、それぞれの未来へ力強く歩み出してください。皆さんの挑戦が、必ず新しい世界への架け橋となります。
皆さんの未来が、虹のように多彩で輝かしいものであることを心から願い、式辞といたします。
令和八年三月二日 長野県阿南高等学校 校長 牧内 千明